地方の種を育てよう

デジタルツールを活用した地域事業の顧客獲得・維持戦略入門

地域事業の持続可能性を高めるデジタル顧客戦略の重要性

地域での活動を通じて社会課題の解決を目指す皆様にとって、活動を持続可能な事業へと発展させることは重要な目標の一つです。事業を継続し、その影響範囲を広げていくためには、単にサービスを提供するだけでなく、活動を支え、価値を享受してくださる顧客（受益者や支援者を含む）との関係性を構築し、維持していくことが不可欠となります。

特に現代においては、デジタルの活用がこの顧客関係構築において強力な手段となり得ます。オンラインでの情報発信、顧客とのコミュニケーション、そして新たな顧客との出会いは、限られたリソースの中で活動する地方の事業にとって、可能性を大きく広げるものです。

本記事では、地域でソーシャルビジネスを展開する皆様が、デジタルツールを活用してどのように顧客を獲得し、良好な関係を維持していくかについて、その基礎的な考え方と具体的な手法をご紹介します。ビジネス経験が少ない方にも分かりやすいよう、基本的なステップから解説いたします。

なぜデジタルを活用した顧客戦略が必要なのか

これまで対面や口コミを中心に活動されてきた方もいらっしゃるかもしれません。もちろん、こうした地域に根差した手法は今後も重要であり続けます。しかし、デジタルツールを活用することで、以下のような利点が得られます。

• リーチの拡大: 地域内だけでなく、関心を持つ全国の人々にも活動を知ってもらう機会が増えます。
• コスト効率: 比較的低コストで、多くの人々に情報を届けたり、コミュニケーションを取ったりすることが可能です。
• 関係性の深化: 一方向の情報提供だけでなく、双方向のコミュニケーションを通じて、顧客とのより強固な関係性を築くことができます。
• データに基づいた改善: どのような情報に関心があるか、どのような層が活動を支持しているかといったデータを収集・分析し、活動や事業の改善に活かすことができます。

これらの利点は、ボランティアベースからの脱却や安定収入の確保といった、事業化における重要な課題を解決するための助けとなります。

ターゲット顧客を明確にする

デジタル戦略を始める前に、どのような人々にリーチしたいのか、そして誰に活動や事業を届けたいのかを明確にすることが最初のステップです。これは「ターゲット顧客の特定」と呼ばれます。

• 誰に価値を届けたいか？ (受益者)
• 誰に活動を支援してほしいか？ (寄付者、ボランティア、サポーター)
• 誰に商品やサービスを購入してほしいか？ (顧客)

これらのターゲットとなる人々は、どのような情報に触れており、どのようなツール（SNS、特定のウェブサイトなど）を利用しているかを考えます。ターゲットが明確になるほど、適切なデジタルツールや情報発信の内容を選びやすくなります。

顧客獲得のためのデジタル手法

新たな顧客との出会いを作るために、以下のようなデジタル手法があります。

1. ウェブサイト/ブログ:

   • 活動内容、提供サービス、理念などを包括的に伝える「拠点」となります。読者ペルソナのように、インターネットで情報収集する層にとって、信頼性の判断材料となります。
   • WordPress, Jimdo, Wixなどのプラットフォームを利用すれば、比較的容易に作成・運用が可能です。
   • 定期的に活動報告や関連情報を提供するブログ機能は、ウェブサイトへのアクセスを増やし、関心を持つ人々との接点を作るのに役立ちます。

2. ソーシャルメディア（SNS）の活用:

   • ターゲット顧客が多く利用しているSNS（Facebook, Instagram, X (旧Twitter)など）を選び、活動の様子やイベント情報を発信します。
   • 写真や動画を効果的に使用し、活動の魅力や成果を視覚的に伝えることが推奨されます。
   • コメントやメッセージを通じて、関心を持った人々からの問い合わせに対応したり、交流を深めたりすることができます。

3. オンラインイベント:

   • 活動報告会、ワークショップ、セミナーなどをオンラインで開催します。
   • Zoom, Google Meetなどのビデオ会議ツールや、Peatix, Connpassなどのイベント告知・集客プラットフォームを利用します。
   • 地理的な制約なく参加者を募ることができ、新たな層にリーチする機会となります。

4. オンライン広告の基礎:

   • Google広告やSNS広告などを利用して、ターゲット層に絞って情報発信することができます。
   • 少額から始めることも可能ですが、費用対効果を考慮し、まずはオーガニックな（広告費をかけない）方法に注力するのも良いでしょう。

顧客関係維持・強化のためのデジタル手法

一度関心を持ってもらえた顧客との関係を深め、継続的な支援や利用につなげるために、以下のデジタル手法が有効です。

1. メールマガジン（ニュースレター）:

   • 活動に賛同したり、関心を示したりした人々向けに、定期的に情報を提供します。
   • 活動の進捗、達成した成果、今後の計画、支援のお願い、イベント告知などを伝えることで、関心を持続させ、エンゲージメントを高めます。
   • Mailchimp, Benchmark Emailなどの無料または安価で始められるメール配信サービスがあります。

2. 簡易顧客管理（CRM）の導入:

   • 顧客の連絡先、関心事、これまでの関わり（イベント参加履歴、寄付履歴など）を記録・管理します。
   • これにより、顧客一人ひとりに合わせたきめ細やかなコミュニケーションが可能になります。
   • ExcelやGoogleスプレッドシートから始めることもできますし、NPO向けの安価なCRMツールや、簡易的な顧客管理機能を持つメール配信サービスなどもあります。

3. オンラインコミュニティ:

   • FacebookグループやSlackなどを利用して、活動を支援する人々が集まるオンラインコミュニティを運営します。
   • 参加者同士の交流を促したり、運営から限定情報を提供したりすることで、帰属意識や関与度を高めます。

具体的なツール選びのポイント

読者ペルソナが基本的なPCスキルをお持ちであることを踏まえ、ツール選びでは以下の点を考慮することが推奨されます。

• 操作の分かりやすさ: 専門知識がなくても直感的に使えるツールを選ぶことが重要です。
• コスト: 予算に合わせて、無料プランがあるものや、NPO割引が適用されるものなどを検討します。
• 必要な機能: 最初に高機能なものを導入するのではなく、まずは情報発信、顧客リスト作成、イベント告知など、必要最低限の機能を持つツールから始めると良いでしょう。
• 日本語サポート: 日本語でのサポートや情報が充実しているかどうかも、運用負担を減らす上で大切な要素です。

デジタル顧客戦略成功のためのポイント

• 継続性: 一度きりの情報発信ではなく、定期的に、計画的に情報を発信し続けることが重要です。
• 双方向コミュニケーション: 一方的に情報提供するだけでなく、寄せられたコメントや問い合わせに丁寧に返信し、対話を心がけます。
• プライバシーへの配慮: 顧客の個人情報を適切に管理し、プライバシーポリシーを明確に示す必要があります。
• 小さな一歩から: 最初から完璧を目指すのではなく、まずはウェブサイトの作成、SNSでの情報発信など、できることから一つずつ取り組み、運用しながら改善していく姿勢が成功につながります。

まとめ

地域におけるソーシャルビジネスを持続可能にするためには、顧客との良好な関係構築が不可欠です。デジタルツールを活用することで、これまでリーチできなかった層へのアプローチや、顧客との関係性を深める新たな道が開けます。

本記事でご紹介したウェブサイト、SNS、メールマガジン、簡易CRMなどの手法は、デジタル顧客戦略の基礎となるものです。すべてのツールを一度に導入する必要はありません。ご自身の活動や事業の目標、ターゲット顧客に合わせて、有効と思われる手法から取り組みを始めてみることを推奨いたします。

デジタル活用のスキルは、実践を通じて習得していくことができます。ぜひ、地域を豊かにするための事業をさらに発展させるために、デジタルを効果的に活用されてください。