地域で活動を続けるためのBCP基礎:災害やトラブル時にも事業を止めない計画づくり
はじめに:地域活動におけるBCPの重要性
地域で長年にわたり活動し、地域課題の解決に貢献されている皆様にとって、その活動を持続可能なものとすることは重要な目標の一つであると存じます。活動の継続性という観点では、日々の運営効率化や資金確保に加え、予期せぬ事態への備えも不可欠です。
特に、自然災害が多い日本では、地震、台風、豪雨などが地域活動に大きな影響を与える可能性があります。また、主要なメンバーの離脱、感染症の流行、システム障害など、様々なリスクが活動の停止や縮小を招くことも考えられます。
こうした事態が発生した場合でも、地域への貢献を止めず、関係者からの信頼を失わないために有効なのが、BCP(事業継続計画:Business Continuity Plan)の策定です。BCPは、緊急事態が発生した場合でも、重要な事業活動を中断させない、または中断した場合でも目標時間内に復旧させるために、平常時に行うべき活動や緊急時における行動などを定めた計画です。
この記事では、地域で活動される皆様が、BCPの基本的な考え方を理解し、活動継続のための計画づくりを始めるための基礎知識とステップについて解説します。ビジネス経験が少ない方にも分かりやすいように、専門用語を避け、具体的なイメージを持って取り組めるように構成しております。
BCPとは何か、なぜ地域ソーシャルビジネスに必要なのか
BCP(事業継続計画)とは、企業や団体が、災害や事故、システム障害などの緊急事態が発生した場合に、被害を最小限に抑えつつ、事業や活動を可能な限り継続し、あるいは早期に復旧させるために事前に準備しておく計画のことです。
単に災害対策マニュアルを作るというだけではなく、「最も重要な活動は何か」「それが中断した場合、どのような影響があるか」「いつまでに復旧させなければならないか」といった点を深く掘り下げ、優先順位をつけて、具体的な復旧のための手順や体制を定めるものです。
地域で活動するソーシャルビジネスやNPOにとって、BCP策定は以下のような点で重要です。
- 地域への貢献継続: 地域住民や社会が活動に依存している場合、活動が停止すると地域課題が解決されずに放置されたり、支援を必要とする人々が孤立したりするリスクがあります。BCPは、こうした状況を防ぎ、地域への貢献を継続するために役立ちます。
- 関係者からの信頼維持: 災害時などに適切な対応を取り、活動を早期に再開できることは、利用者、ボランティア、寄付者、行政、地域住民など、様々な関係者からの信頼を得る上で非常に重要です。逆に、何も備えがなく活動が長期停止すると、信頼を失う可能性があります。
- 組織のレジリエンス(回復力)向上: BCP策定プロセスを通じて、組織内の課題が明確になり、リスクに対する意識が高まります。これにより、予期せぬ事態に対する組織全体の対応力や回復力を高めることができます。
- 資金調達や連携における有利性: 近年、行政からの委託事業や企業のCSR連携、一部の助成金などにおいて、BCP策定の有無が評価項目の一つとなる場合があります。持続可能な組織運営体制を整備していることのアピールにもつながります。
BCP策定の基本的なステップ
BCP策定は、難解で大掛かりなものと捉えられがちですが、まずはできる範囲から段階的に進めることが可能です。以下に、基本的なステップをご紹介します。
ステップ1:事前準備と目的の明確化
まずは、なぜBCPを策定するのか、その目的を組織内で共有することから始めます。「災害時にも見守り活動を続けられるようにする」「子育て支援拠点が閉鎖されても、最低限の情報提供は維持する」など、具体的な活動を念頭に置くと良いでしょう。
次に、BCP策定の推進体制を決めます。専門の担当者を置くことが難しい場合でも、責任者を明確にし、複数のメンバーで協力して進めることが望ましいです。また、どの活動・事業を対象とするか、範囲を特定します。組織全体の活動を一括して計画することが難しければ、最も重要度の高い特定の事業や活動に絞って始めることも有効なアプローチです。
ステップ2:リスク分析と事業影響度分析(BIA)
どのようなリスクが組織の活動を脅かす可能性があるかをリストアップします。自然災害(地震、台風、洪水など)はもちろんですが、火災、システム障害、主要メンバーの長期離脱、サプライチェーンの寸断(物品が届かなくなる)、感染症の流行なども考慮に入れる必要があります。地域特有のリスク(例:特定の交通網の遮断)も検討します。
次に、リストアップしたリスクが、組織の活動にどのような影響を与えるかを分析します(BIA: Business Impact Analysis)。 * 最も優先して継続・復旧させるべき重要な活動・事業は何か? * その活動が中断した場合、地域社会や関係者にどのような影響が出るか?(経済的損失だけでなく、社会的な影響、信頼失墜なども含む) * その重要な活動は、最大でどのくらいの期間中断しても許容できるか?(目標復旧時間)
例えば、高齢者への食事提供サービスであれば、「食事の提供がストップした場合、利用者の健康に重大な影響が出る」「数日以内に再開が必要である」といった分析を行います。
ステップ3:復旧戦略の検討
ステップ2で特定した重要な活動について、中断した場合にどのように復旧させるか、代替手段を検討します。
- 人的資源: 主要な担当者が不在になった場合、誰がその役割を担うか? 複数の担当者で情報を共有しておく、マニュアルを整備するといった対策が考えられます。
- 物的資源: 事務所や活動拠点が使えなくなった場合、代替となる場所は? 必要な備品や消耗品(医薬品、食料、燃料、バッテリー、連絡手段など)の備蓄は?
- 情報資源: 利用者リストや支援者情報、活動に必要なデータなどはどのようにバックアップし、アクセス可能にするか?
- 資金: 緊急時の活動資金をどのように確保するか?
- 外部との連携: 他のNPO、自治体、企業、地域の避難所などと、災害時などに連携協力できる体制を検討する。
具体的な例として、活動拠点が被災した場合、近隣の公民館を一時的な事務所とする、オンライン会議システムを活用して情報共有を行う、特定のメンバー宅に重要な書類のコピーを保管しておく、といった対策が考えられます。
ステップ4:BCPの策定(文書化)
ステップ3で検討した内容を、具体的な手順として文書化します。誰が、いつ、何を、どのように行うかを明確に記述します。以下のような要素を含めると良いでしょう。
- 緊急時対策本部の設置や指揮系統
- 関係者(メンバー、利用者、地域住民、行政など)への連絡方法や伝達内容
- 安否確認の方法
- 重要な活動の継続・復旧手順(優先順位、代替手段、担当者)
- 必要な資源(人、モノ、情報、資金)の確保・調達方法
- 行政や他団体との連携に関する取り決め
- チェックリストやフローチャート形式で、緊急時の行動を分かりやすくまとめる
文書は、関係者が必要な情報にすぐにアクセスできるよう、保管場所や共有方法を定めておきます。
ステップ5:訓練、教育、見直し
策定したBCPは、実際に機能するかどうか検証することが重要です。メンバー全員で共有し、机上訓練(実際に災害が発生したと想定し、文書に沿ってどのように行動するか議論する)や図上訓練(地図などを使って、避難経路や集合場所などを確認する)などを実施します。これにより、計画の不備が明らかになったり、メンバーの理解を深めたりすることができます。
また、組織の状況や外部環境は常に変化します。策定したBCPは一度作って終わりではなく、定期的に(例:年に一度)見直し、必要に応じて改訂することが重要です。新しいメンバーが加わった際の教育も忘れてはなりません。
策定のポイントと役立つ情報
BCP策定に取り組む上で、以下の点を意識すると良いでしょう。
- まずは小さく始める: 全ての活動を網羅した完璧な計画を目指すのではなく、最も重要な活動一つに絞る、特定の想定リスク(例:地震)に絞るなど、できる範囲から着手します。
- 関係者全員で共有: 策定プロセスに可能な限り多くのメンバーが関わることで、当事者意識が生まれ、実効性の高い計画となります。
- 既存資源の活用: 既に作成しているマニュアルや連絡網、防災備蓄などをBCPの一部として組み込むことができます。
- 行政や支援機関の情報活用: 国や自治体では、中小企業やNPO向けのBCP策定ガイドラインやひな形、テンプレートなどを公開している場合があります。これらを参考にすると、ゼロから作るよりも効率的に進められます。また、商工会議所や地域のNPO支援センターなどが、BCP策定に関する相談やセミナーを実施していることもあります。
まとめ:持続可能な地域活動のために、今できる備えを
地域で活動を続ける皆様にとって、予期せぬ事態への備えとしてのBCP策定は、活動の継続性を高め、地域からの信頼を確固たるものにするための重要なステップです。
難しく考えすぎず、まずは「もし明日、活動拠点が使えなくなったらどうするか?」「主要な連絡手段が使えなくなったら?」といった具体的な問いから始め、できることから検討を進めてみてください。小さな一歩からでも、計画的に備えることで、組織のレジリエンスを高め、地域への貢献を持続させていく力につながるはずです。
この記事が、皆様のBCP策定に向けた取り組みの参考になれば幸いです。